歴史小説8

明智日向守光秀殿からの投稿

「マムシの親子」第二章、『濃姫婚礼!?』

天文16年9月半ば――織田信秀の軍勢は木曽川を越えて美濃へ乱入。
方々の村に火を放ち始めた。
この行動には二つの意味合いがある。一つは美濃の民衆の動揺を誘い、
斉藤氏への協力を拒ませること。もう一つは、
統治能力のなさを見せつけることで、
美濃の豪族達に織田家への帰順をうながすこと。
余談であるが、この当時、「田畑はぎ」は自分の領土の年貢も確保できない、
という意味があり、やられた側の大名にとっては最大の屈辱とされていた。
が、道三は―
「父上っ!織田方の兵が方々の村に火を放っております。
なにとぞ、この高政に出撃の許可を!」
稲葉山城天守櫓(当時はまだ天守閣はなかった)から悲痛な叫び声が響く。
が、前の何度かがそうだったように今度もまたその要請は却下され、
意味を失ったその声だけが赤々と秋の色彩をまとい始めた
美濃の山河にむなしくこだました。
稲葉山城は長良川ぞいにそそり立つ標高336メートルの
金華山の山頂にある。平野が多い美濃はなだらかな土地が続いており、
そのため、この山だけが平野に忽然と現れたような峻険な要害となっている。
鎌倉時代に二階堂行政が設して以来、
この城は美濃の原野を睥睨し続けていた。
その最も高い位置にあるはずの本丸天守櫓に今、道三と高政が立っている。
歴代の城主がかつてそうしたように、
なだらかな土地が見渡す限り広がる濃尾平野をはるか眼下に望みながら。
「父上、なにをためらっておるのです!今織田勢に一泡ふかせなければ、
豪族達からも織田方に内通する者が現れますぞ!」
道三はまたしても無言だった。だが、その沈黙を保った背中は
高政の要請を確実に拒否していた。
背中をにらみつけている高政の胸中に
しだいにいてもたってもいられない気持ちが広がってく。
そして、ついに高政がその沈黙を肯定と勝手に解釈しようとしたとき、
「高政」
重々しい威厳をまとった道三の低い声が聞こえた。
「ははッ!」
「そちは若い・・・なんでも力を先立たせようとする。
力がありあまっていることは若者の特権だが、そのために先走り、
痛い目を見ることもある。まあ見ておれ。儂が大人の戦い方を見せてやる。」
「はッ、承知つかまつりました。」
高政はぎゅっ、と唇をかみしめながら神妙に答えた。
道三にしてみれば別に今の言葉に皮肉を込めたつもりはない。
むしろ、将来この美濃の国と斉藤家をしょって立つ息子のために
自らの生涯を通して学んだ戦い方を伝授しようと考えていた。
だが、高政には今の言葉の中で自分が猪突猛進を繰り返すだけの未熟者と
あざけられたような気がしてならなかった。
(父上はいつも俺を子供扱いしている・・・)
あのあと、憤懣たる思いを胸に秘めたまま道三の前を退出した高政は、
ドスドスとわざと大きな足音を立てて稲葉山城内を歩いていた。
(くそっ!父上も美濃の豪族達にはまるで人気がないではないか。
所詮は成り上がり者と陰口をたたかれておるくせに、
顔を合わせれば偉そうな説教ばかり・・・)
斉藤道三は1494年(明応3年)美濃に生まれた。
これまでは司馬遼太郎氏の「国盗り物語」に代表される
道三一代による国盗りが通説だったが、近江の大名、
六角義賢が1560年(永禄3年)に著したと言われる
「六角承禎条書」が最近発見されたことによって、道三の父、
長井新左衛門尉が長井氏に仕えて主家をもしのぐ実力者となり、
その後を道三が引き継いでついに美濃一国を乗っ取った事実が
明らかになった。つまり、「国盗り物語」は
親子二代でなした業だったのである。
だが、その支配体制は脆弱で、1535年(天文4年)の
長良川の大洪水をきっかけに、翌年まで続いた美濃の内乱は、
美濃斉藤家の支配による地盤が不安定であることを
国の内外に露見させた事件だった。なお、この内乱は道三が当時の守護、
土岐頼武を追放し、頼芸を代わりに据えようとしたことにも一因している。
それ以後、自らを成り上がり者だと自覚している道三は、
守護、土岐氏の権威でその支配を正当化して
いたのだ。
当然、そんな道三に人望が集まるわけがなく、
豪族達の中には嫌々ながら道三に従っている者も多い。
それが隣国の織田氏や朝倉氏に付け入られる原因の一つにもなっている。
高政にとってはそこが不安のタネであり、
また同時に父をどうしても心から尊敬出来ない遠因でもある。
(成り上がり者・・・やはり父は所詮成り上がり者なのか・・・・・?)
高政は自らつぶやいた言葉が耳の中で反芻するのにじっと聞き入った。
そして同時に、その言葉を言下に否定できない自分を、
どこからか冷ややかな目で見つめている
もう一つの自分の存在に気づいていた。
その存在はまさに彼の光と影、陰と陽、全くの対局に位置する存在、
対局の役割を与えられ、自らは決して表に出ない存在――
そう、俺は知っている。「あいつ」はこんなときいつも俺のそばにいた。
小さい頃から、ただの一言も発することなく、俺を見続けている。
あの、氷のような冷たい光を宿した目で。けど、
俺は「あいつ」がなにを言いたいのか
知っている。誰よりもよく知っている。それは―
「あ・に・・うえ・・・兄上っ!」
高政はハッと我に返った。いつの間にやら帰蝶の部屋の前にきていたのだ。
帰蝶は高政が驚いて自分の方をふりかえるのを見ると、
にっこりと人なつっこい笑顔を見せた。
「いかがなされましたか?また、父上からお叱りをうけましたか?」
帰蝶がこんな態度を見せるのは父、道三と三人の弟、
それにわずかな親しい人たちだけだった。
高政もそのあけっぴろげな笑顔につられて思わず相好をくずす。
「いや、たいしたことではない。それより、
お前こそ父上や母上にこっぴどくしかられたのではないか?」
高政はこの前帰蝶が戒厳令下に無断で城外に出たことを揶揄した。
それを聞いて、今度は帰蝶の表情にわずかなかげりがさした。
「母上からは・・・なにも。」
「そうか・・・。」
帰蝶は道三の正室であり、彼女の義母でもある愛芳野だけは
どうも好きになれないらしく、いつも何かにかまけたは接触を避けている。
愛芳野は彼女で、明智氏の娘である彼女を毛嫌いしているフシがあった。
その表情の変化を見て取った高政は、気まずい話題にふれたかな?と思い、
こほんっ、
と一つ咳払いをしてから急に話題を変えた。
「おおっ、そういえばお前、外に出た際いい男に会ったらしいな?
え?どうなんじゃ?」
何気なく言った言葉だったが、それを聞いた帰蝶はハッと身を固くすると、
うつむいたままもじもじと考えるそぶりを見せ始めた。
「?」
おかしい?と高政は思った。今までどんな男もかしずかせ・・・もとい、
どんな男にも関心を寄せなかった帰蝶がこんな態度を見せるとは?
やがて意を決したらしい帰蝶は高政の耳元にそっと唇を寄せた。
「お、おいお前!?」
わが妹とはいえ、14歳の濃姫はすでにオトナの魅力を備えつつある。
その子に迫られて、高政は思わず困惑した。
当然のごとく混乱しまくった思考はあらぬ妄想を抱く。
(いかん!兄と妹の禁断の愛など・・・)
・・・・・・・・・・。まあ、
たいていのオトコなんぞ所詮こんなモンである。
だが、次の瞬間甘い息を吹きかけるほのかに朱を帯びた唇からは、
高政の甘美で幸せな妄想を吹き飛ばす驚愕のセリフが発せられた。
「尾張のうつけ殿に会いました。」
「なっ・・・・・!?尾張のうつけって・・・あの・・・・・信長!?」
高政は文字どうり飛び上がって驚いた。興奮した息は乱れ、
発せられる声はうわずって
いる。そしてただでさえ混乱していた思考はさらに混乱する。
「おおおおおおお前まさかあああああのうつけにホレたぁ!?」
すでに混乱の極みに達しつつある思考が
どうにか導き出した答えはそれだった。それに対して・・・
「ハイッ!」
「うっだあああああああああああああああああああ
あああああああああああああっ!!」
帰蝶の元気な返事が、高政の思考にトドメを刺した。
そして・・・・。次の瞬間、彼の意識
は暗転し、ズズーン!と朽木が倒れるような振動が、本丸御殿を揺るがした。
「ああっ!兄上!?ウソですっ!じょーだんですってば!ちょっと、
今のとりけしっ!誰か御医師衆を!早くっ!」
口から泡を吹いて倒れた高政を前にあわてふためく帰蝶の声を、
どこか遠くに聞きながら
高政は心の中でツッコミを入れた。
(とりけせるかあああああああああああっ!?)
そして・・・彼の意識はそれを最後に完全に闇に落ちた。
ドタバタと響く大勢の人々の足音と、帰蝶の悲鳴は、
高く澄んだ秋の空に吸い込まれ、やがて消えていった・・・・・
。 ちなみに、濃姫が信長に輿入れするのは、このほぼ1年後のことである。

・・・・・・・・・・いかがでした?いや、
いかがもなにもこーゆう話ですけど・・
・・・。ふと、書き終わって気づいて見たら、
内容と題名がぜんぜんかけ離れていたとゆー作者の
くそいーかげんぶりを露見する話です。
おまけに前半のシリアスな部分と
後半のギャグの部分も全然かみあってないし・・・。
まあ、一つだけネタをばらすと、
このころはまだ濃姫は信長のことを明確に好きだとは感じてません。
「ちょっと気になる相手」ぐらいの認識でしょうか?
では、また次回作で!しーゆーあげいん!





投稿本当にありがとうございました。

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