歴史小説5

石田三成殿からの投稿

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今回石田三成は歴史小説を書きました。初めに断っておきますが、これは、無知な私から見た歴史なので、多少皆さんと意見が食い違ったり、フィクションが過ぎると思いますが、御愛嬌と思って楽しんで頂きたいと思います。それでは、読んでください。
タイトルは
  
        「漢の再興」
                     です。
 
 
第一章    秋風五丈原
 
                       一 
 建興十二年秋、見渡す限り草原が続く五丈原の大地に蜀の丞相、諸葛亮は立って
いた。諸葛亮の見つめる先には、魏の大都督司馬懿の篭る砦があった。諸葛亮、字
は孔明といい、青糸で紡いで作った綸巾(りんきん)をかぶり、鶴の羽でおった道服を身にまとい、手には、白羽扇を持っている。身の丈は八尺(当時の一尺は約二十三cm、よって彼は百八十四cm)もあったが、彼の痩身が身長をより高く見せていた。そして今、彼はより痩せていた。諸葛亮は、自分が余命幾ばくも無いことを悟っていた。
 今、諸葛亮は、魏軍を見つめながら、(姜維、頼むぞ、)と心の中で思っていた。ことの始まりは、三日前の魏延の発言によるものだった。
  「丞相、某が五千の兵を率いて、武功県より、長安を落とします。さすれば、長安より魏軍を包囲殲滅できましょうぞ!」軍儀の席において、魏延がいきなり発言した。
 諸葛亮は、驚きその策を受け入れなかった。実は、諸葛亮は、魏延が信用できなかった。魏延には、反骨の相があった。だが今までの方法が通じない今、この策を取るしかなかった。結局、軍儀は、中断した。
 軍儀から半刻ほど経っていた。彼は、珍しく酒を飲んでいた。そこへ、姜維の声がした。 (丞相殿、御耳に入れたい事が・・・・・・・・・)
 「姜維か、入れ。」
幕舎の中へ姜維が入ってきた。
 「姜維よ、なんだ?」
 「丞相、この際、魏延の策を容れるべきかと・・・」
 「しかし、魏延は信を置けるとは、言えぬ。」
 「ならば、私が行きましょう。」
 「御主がいってくれるか?ならば安心だ。」
諸葛亮は、喜んだ。その夜、姜維率いる別働隊は、長安に向けて進撃を開始した。諸葛亮は、その様子を静かに見つめていた。
 翌日から諸葛亮は、司馬懿に対してしきりに決戦を挑み始めた。当然ながら、偽装戦闘である。
 作戦開始から三日が経った。日も暮れようとしていた。諸葛亮は、なにか胸騒ぎを感じ、外へ出た。夕日を後に現れた軍勢があった。
 
      (敵か?)
 
と思った。だが、それは外れた。「蜀漢」、「姜」と書かれた旗が閃くのが見えた。砂埃を揚げながら、一人の男が駆け抜けてきた。蹄の音が高くなるのと供に明らかになったその姿は、紛れもなく、姜維であった。
 「やりました。」と姜維は涙ながらに答えた。
 「してやったり!」諸葛亮は、恥も外聞もなく、喜んだ。日頃の彼からは、想像もつかなかった。
                     
                       
 一方、所変わって、ここは、魏の陣地。司馬懿は、なにか、よからぬ気配を感じていた。そこへ、早馬が駆け込んできた。
 「何事か。」
司馬懿は、自ら表へ出た。
 「だ、大都督様へ、こ・・れを」
見ると使者は、全身に矢を受け、息も絶え絶えだった。
 司馬懿は、全身が、震えていた。その書簡には、長安が落ちたという事が書いてあった。
 「おい、これは真か!」
使者は、物言わぬ骸と化していた。
 司馬懿は、この事を将兵へ、伝えた。さすがに、諸将は驚きを隠せなかった。
 「もはや、わが軍は終わりだ。お前達は、故郷へ帰れ。」
兵士の一人が、言葉を発した。
 「大都督様は、いかがなさる御つもりで?」
司馬懿は、数瞬なにも言わなかったが、
 「私は・・・蜀軍へ突っ込む、そして・・・・孔明と決着をつける!」
 司馬懿の発言に諸将は驚きを隠せなかった。
 司馬懿は、最後の酒を飲み始めた。
 (俺の命もこれまでか。)
 一刻後、司馬懿は身を清め、青い布で作った、頭巾をかぶり、長剣を引っさげただけで、蜀軍の陣へ突入した。
 司馬懿の脳裏に、五十六年の人生が、思い出された。
 二十三歳において、文章の起草役を務め、曹丕の即位にあっては、絶大な信頼を受けた。曹操の顔が曹丕に変わり、それが、長男司馬師、次男司馬昭に変わった。
 だが、その過去の思いは、すぐさま蜀兵の殺気により消えた。
 司馬懿は、目にも留まらぬ早業で剣を抜き払った。槍を繰り出そうとした兵は、体のみを残し首は、何処へぞと飛び去った。
 「孔明ーッ何処だー。」
司馬懿は怒気を強め襲い掛かってきた。
 「丞相を御守りしろーッ。」の隊長の声は、司馬懿の剣により掻き消された。
 兵士達には、司馬懿が鬼神の如く見えた。
 「何事かッ?」
諸葛亮が、現れた。
 「敵将、司馬懿と見える者が、わが軍へ、突撃した模様!」
 「して敵はいくらある?」
 「司馬懿一人にございます。」
                     
                       
 「決死の覚悟か、」
諸葛亮は、呟いた。
 「ならば、私がいこう。」
 「丞相、危険すぎます。」
と叫んだものがいた。姜維であった。
 「私が司馬懿を討ちます。」
 「姜維よ、私は、もう永くはない・・・・」
 「えっ?」
 「ならば、司馬懿と刺し違えてでも陣没したいのだよ。」
 「丞相。」
姜維は、涙ながらに了解した。
 諸葛亮は、普段の格好に白羽扇を持つと、黒馬に跨り、司馬懿に向かって行った。
 「ムッ!」
 「あれは、孔明・・・・・」
 諸葛亮が口を開いた。
 「司馬懿仲達よ、我こそは、蜀漢丞相、諸葛孔明。いざ掛かって参れ。」
 「望むところだ。」
 二人は、馬を疾らせた。二人がすれ違った瞬間、司馬懿の体からは、緋い血が流れ出た。白羽扇には、極薄に打ちのめした鉄を仕込んでいたのだ。
 蜀の陣営からは、歓喜の声が出た。だが、諸葛亮は馬からどうと落ちた。
 四半刻ほど経ったであろうか。諸葛亮は、寝台に横たわっていた。
 諸葛亮は、感覚が戻りゆく中、姜維らの声が耳に入ってきた。諸葛亮は目を覚ました。
 「ウムッ。」
 「丞相、起きてはなりません。」
 「司馬懿は?」
 「丞相が討ち取りました。」
 「そうか。」
 「魏軍は、壊滅状態です。このまま追撃を、」
 「そうしよう、だが私は、ゴホッ、ゴホ・・・」
寝台が、赤く染まった。
 「丞相!」魏延が、叫んだ。
 「見ての通りだ。姜維よ、私を外に出してくれぬか?」
 「分かりました。」
諸葛亮は、四輪車で外へ出た。五丈原の空に星が煌めいていた。
 「よ・・いか?私が死んでも魏軍追撃の手を緩めるな、魏延よ、そなたには、引き続いて総大将を任ずる。よいな?」
 「ハハッ。この魏延身命を賭して、蜀漢に尽くします。」
 「そうか、ならば良い。姜維は、参謀を務めよ。」
 「かしこまりました。」
 「フウッ・・・・見よ、もうすぐあの星が落ちる、あれは私の星だ。」
 「丞相」
皆、声を揃えた。その瞬間星が落ちた。
 「ハッ、じょ、丞相。」
建興十二年秋、五丈原に諸葛亮孔明死す。享年五十四歳。
 その夜全軍の間に泣き声が聞こえた。(第一章完)
 
 次回へ続く。
 





投稿本当にありがとうございました。

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