歴史小説4

独眼龍 政宗殿からの投稿

三成の陣では関ヶ原の対陣を前に軍議が開かれていた。
「思ったより狸の行動が早かったな…しかし、真田親子のおかげで
秀忠が足止めされている事を考えれば数は有利か…」
地図を目の前にして、三成が扇子で陣備えを確認しながら呟いた。
「数が互角とは言え、我々の方には徳川と通じている者もいると聞く、
ここは夜襲を仕掛けて確実に家康の首を取るのが良いと思うがのう。」
九州よりはるばる参戦した老体の島津義弘が、夜襲を進めるが、
三成はそれを良しとしない。
「夜襲などしなくても勝てる戦で、わざわざ夜襲をして
自らの名を汚すまでもない。それに、確かそなたも伏見城攻略の折、
一度は城内に入り徳川に付こうとしたはずだったが…?
夜襲と言っておきながら我々をはめる気では無かろうな?」
今だ義弘に対して疑念を抱く三成に対して、義弘は落ち着きをはらっている。
「確かに一度は徳川に付いたが、その後異心無き事は
伏見城攻略で明らかにしたつもりだがのう…?
まぁそれは良いとして敵には太閤殿子飼いで知られる、
猛将の福島正則を始めとして、徳川家臣本多忠勝等油断のならぬ相手が多い。
その上相手は士気に於いて我らより上まっておる。
ただでさえ武田の騎馬隊に次ぐ強さを持つといわれる
三河兵相手に対してこちらの内情は、秀頼殿の為と集まった者の中にも、
家康と通じている者すらいる状況。
更には家康は野戦を得意としている事を考えれば、
三成殿の入手した情報が家康につかまされたと考えるのが条理。
夜襲で確実に仕留めなければ負けを見る事になるかも知れぬぞ?」
「仮にも私は秀頼殿を狸から守る為に戦うのだ。豊臣の名の元に戦う以上、
奇襲など卑怯な真似ができようか。」
三成は義弘の発言に対してしかりつける。それを聞くと義弘は
席を立って陣中を離れる。
「義弘殿!軍議はまだ終わっておりませんぞ。」
大谷が止めようとするが、義弘のそばにいた豊久はそれを払いのける。
「これ以上何を話しても無駄であろう。」
こうして騒がしいまま軍議は終わり、ついに対陣の時となる
戦は五分五分で一行に動きを見せず陣中の三成は焦りを感じる。
「なぜだ…なぜ小早川と吉川、島津は動かないのだ!?」
三成が焦る中笹尾山のふもとに陣取る義弘は冷静に戦況を判断していた。
「南宮山の部隊は吉川が動かない為に動き出す機を取れずにいる…
吉川め、徳川と裏でつるんで中立を決めこんでいるか…
松尾山の小早川も中立を決めこんだか…?いや…秀秋の事だ…
どうせ関白の位と所領増しを天秤にかけているのだろうて…。
三成め…作戦の上で勝てようとも、戦には人に予想のつかぬ鬼が
すんでいるというに…文官の三成にはわからぬことかのう…。
奴が指揮を取った時点で負けは決まっていたのかもしれぬ。」
義弘が戦況を判断している中、三成からの使者が走ってくる。
「島津殿!!三成殿からの指令です。小西殿とともに前線に出て
黒田・細川隊を撃破せよとの事です!!」
使者の言葉を聞いて豊久が笑う。
「いまさら動いて何になる!?わざわざあれほど進言したのに、
それを聞かなかった奴の命令などいまさら聞いてな!
戦況は五分だが三成の為に大切な兵を失う気は無い。
そう伝えておけ。」
その後も三成からは再三に渡って出陣要請が来るが、
義弘は断固として首を縦に振らない。そうしている中、
銃の発砲音とともに松尾山に陣を置く小早川が大谷隊に突撃を開始する。
「小早川が裏切ったか…これで負けは決まったな…」
義弘のぼやいたとおり、大谷隊は何度かに渡って
数に勝る小早川隊を盛り返し、その本隊近くまで攻め入るが、
数の前にはついに勝てず大谷吉継は切腹をし、大谷の後ろで戦っていた
宇喜多も退却をし、石田三成も敵に破れ敗走した。
「石田三成殿敗走にござる!!」
島津の陣に報が伝わる。
その報を聞いて義弘は天を見上げる。
「やはり負けたか…」
義弘が呟く中豊久が指揮を仰ぐ。
「我等はどうします?このまま待機していては徳川に押しつぶされます。
我等も退却をした方が良いかと…」
豊久の進言を聞くと義弘は首を横に振る。
「ここで退却すれば我等も負け武将となり、
ゆくゆくはお家断絶になりかねん。ここは徳川に一泡吹かせ
我等の力を示すべきであろう。」
豊久はそれを聞くと兵に激を飛ばす。
「我等はこのままおめおめと退却できん!!
これより石田と徳川の戦いより島津と家康の戦いになる。
家康に薩摩隼人を見せ付け島津の恐ろしさ特と味会わせてやるぞ!!
敵の陣中央を突破し、家康と直政の陣の間をぬけ退却をする!!」
「お〜〜〜〜!!」
豊久の激に兵は打ち震える。
「全軍突撃!!」
義弘の号令とともに全軍が家康の陣中目指して突撃を開始する。
勝利の確信からか、島津の突撃を前に徳川の軍勢が押され
その中央突破を許し、島津を本陣の桃配山に近づける。
井伊直政の部隊が桃配山の守備に回ったのを見ると豊久が指揮を取る。
「井伊の部隊が桃配山に行ったか…全軍松尾山を抜け退却するぞ!!」
島津の軍勢は井伊の部隊が持ち場から離れたのを見ると、
井伊と京極の部隊の間を抜けて退却に移る。
「おのれ…逃がすか!!」
逃げる島津に対して執拗に直政は追撃をする。
「父上!!ここは私にお任せを!!」
馬に乗った義弘に数人の護衛をつけると豊久は馬を後ろに向け
数人の部下とともに突撃する。
「これより先には一歩も通さぬぞ!!」
「小癪な!!」
直政と豊久は激闘を繰り広げるが、ついに直政の一振りが豊久に命中する。
「おのれ…」
豊久は最後の力を振り絞り槍を直政に投げとばす。
豊久の投げた槍は見事直政に命中すると、直政は馬から落ちる。
「殿!!」
井伊直政の負傷によって島津を追っていた部隊もついに追撃をあきらめ
義弘は一命を取りとめる。
この後、西軍を裏切った小早川には大した恩賞も出なかったが、
西軍に付いた事になっている島津に対しては敵であるにもかかわらず
最後の中央突破が功をなし音沙汰なしになる。
なお、豊久を討った直政も、この後槍の傷がもとでか度々に病に伏せ
豊久を討った数年後に死亡する





投稿本当にありがとうございました。

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