ある農夫の話

遅馬殿からの投稿

伏見の町の一角では、人だかりが出来ていた。
その渦の中心にいたのは何の変哲もないある農夫だった。
「今日さ、戦があったんだ。戦が。」
農夫はとても慌てていた。何故慌てていたか解らないが、
周りの人々はそんな彼を抑えるのに必死だった。
「その戦はどんな様子だったんだ?」
ようやく落ち着いた彼を見計らって、ある男がその農夫に尋ねた。
「夜、外が騒がしくて起きたんだけど、突然大軍が伏見城に
押し寄せていったのを見たんだよ。いつもなら、そんなに軍がこないのに
おかしいと思ったんでその後をこっそりついて行ったんだよ。
そしたらさ、お城のほうにその軍が入っていくんだよ。それでしばらくしたら、
お城のほうから火の粉が上がって、大きい火柱が立ってたんだよ。」
周囲の者達はその農夫の話に聞き入っていた。農夫はさらに続けた。
「それでさ、火柱が上がった城から出てきた軍隊があっという間に
町の外に出たんだ。疾風みたいでとても驚いたんだよ。」
「ふ〜ん」周りの人々はもう彼の話を半ば聞いていなかった。
その時、別のところで大声で何か叫んでいた。
「瓦版だよ!瓦版!昨日の事が一目で分かるよ!」
たちまち人々は、瓦版を持つ男の元に走っていった。
こうして独りになった農夫を遠くから見ていた。そして、
私はその農夫を切り殺した。
「すまんな。」
私は農夫に聞こえるようにいった。それ以上こいつに喋られると困るからだ。
私は近くにあった馬に乗り、走り出した。周りは誰も気に留めなかった。
成功だ。私は馬に乗りながら確信した。まさか、この鳥居元忠が
民家に隠れていたと知られたら一巻の終わりだからな。
これで良いんだ。・・・・

その後の彼を見たものは居ない・・・・・






投稿本当にありがとうございました。

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