歴史小説19

竜造寺隆信殿からの投稿

毛利統一伝

初めての小説なので少々の事は大目に見てください。
注・この小説はフィクションです。


時は1582年。ここは備中高松城を挟んで
羽柴秀吉と対岸にある毛利の本陣である。そこに総大将の毛利輝元がいた。


深夜、輝元は小姓に起こされた。忍びが奪った書簡だと言う、
輝元は眠い目を擦りながらその密書に目を通した。
そこには驚くべき事が書いてあった。
「我、本能寺ニテ信長ヲ討テリ」 惟任光秀
輝元は驚きのあまりその場に書状を落としてしまった。
すぐに拾い上げると小姓に
「急いで隆景、元春叔父上を呼んでまいれ」
と命令した。小姓が去ると輝元はふと思った。
「これで天下が再び動き出わい」と・・・。

しばらくして小早川隆景と吉川元春が輝元の陣に到着した。
元春は熟睡中に起こされたらしく少し不機嫌であった。
「こんな夜更けに如何なる様じゃ輝元殿?」
元春が不機嫌そうに尋ねる。輝元は何も言わず密書を
元春ではなく隆景の方に手渡した。隆景が密書を見る。
その横から元春もチラリと見る。全て読み終わったのか、
それとも横から見る元春を五月蝿く思ったのか密書を元春に手渡した。
隆景は腕組みしたまま思考に入っていた。
そんな中、最初に声を発したのは意外にも元春であった。
「で、輝元殿はどうなさるのじゃ?」
不意の方向からの不意の質問に輝元は戸惑った。
こういう場なら隆景が声を発するので体も自然と隆景の方を向いていた。
「そ、その事を二人に相談したかったのだ」
輝元はしどろもどろになりながら答えた。そして、隆景が声を発する。
「作戦としては二つありまする。
一つはこのことを知らない振りして羽柴と和睦する事」
「おい!どうして、羽柴と手を結ばにゃならんのだ」元春が声を荒げて叫ぶ。
「この手紙には万が一、届かなかった場合を考えて送る。
と書いてあります。この手紙を忍びが奪い取ったなら、
最初の手紙はすでに羽柴に渡ってるものと見てよろしいのでは?
それに羽柴ほどの者なら主君の仇を討ち、天下を統べると考えておる。
今の内に恩を売っておくのも悪くないでしょう」隆景が冷静に答える。
「そしてもう一つがこの事件を利用し、天下を統一すること。
しかし、私は前者が良策と思います」隆景の提案が終った。
再び場に冷たい空気が流れる。輝元は決断した。
「亡き大殿(毛利元就)の遺言は天下を望むなと言う事だった。
しかしそれは祖父上に時間が無かったからである。
私と両叔父上が力を合せればきっと上手く行くはず。
どうかこの輝元に協力してくださらんか?
それに私には天下を取るさくがある」
そして輝元はその策を喋り始めた。それを聞いて元春は
「なんと素晴らしい策。そのためならこの元春、
輝元殿の手足となりましょうぞ」
隆景をその策に同意して
「なるほど、その策なれば天下も取れましょう。
しかし、万が一を常に考えなされ」
そういって隆景は輝元をたしなめた。
「そうと決まればこの策を始めましょう。まずは
豊後の大友と土佐の長曾我部への対応じゃ。
土佐には福原殿に行ってもらう。これは後から私から話しておこう。
羽柴への対応は安国寺に任せる。元春殿は・・・をしてくだされ。
隆景殿は兵を使ってこれを作ってもらいたい」
そういって輝元はとある設計図を隆景に渡した。
「しかしこれは今だ実験段階のはず。
完成しても成功するかどうか・・・」
隆景は心配そうに言う。しかし輝元は、
「この戦、これが必要不可欠じゃ。
だが成否も出たとこ勝負じゃ」と笑いのけた。
「これにて評定を終る!全員の奮起、非常に期待しておる」
と締めくくった。

こうして毛利が天下取りに向けて静かに動き出すのであった・・・。



秀吉は焦っていた。主君の信長が死に、自分は仇を討つため
急いで姫路に帰りたいのだが、和睦相手の毛利家は
「輝元殿、御病気にて面会謝絶」とか、
「隆景殿、私事により陣中を退陣」とかの答えが返ってくるだけであった。
頼りにしていた安国寺でさえこちらの条件をのらりくらりと交わすだけであった。
「やはり、官兵衛を呼ぶべきか・・・」と、
秀吉がそう思った時に官兵衛が入ってきた。
「おお、来たか官兵衛。今、そちを呼ぼうとした所じゃ」秀吉はそう言って
官兵衛を見たが官兵衛はうつむいたままだった。
「官兵衛?どうした。何かあったのか?」
秀吉が尋ねると官兵衛は恐る恐る口を開いた。
「殿、すいません!この官兵衛、一生の不覚です。
よもや明智の使者が二名、しかも後者の書状は
毛利方に奪われているようです」官兵衛が言うと、
「なっ、ではわしが明智を討ち、天下を取れるというのは・・・」
「おそらく不可能に近い状態かと」官兵衛もそれだけしか言えなかった。
毛利に信長死去の報が入るということは毛利の逆襲を予感させる事であった。
「しかし、手はあります」官兵衛は落胆する秀吉に言った。
「何、そんな手があるのか?」秀吉はすがるように官兵衛を見つめた。
「京に戻り、明智と手を結ぶのです」
「馬鹿な!そんなことできるわけ無いじゃろう。
信長様を討った謀反人と手を結べるか!」秀吉は激昂した。
しかし、官兵衛は冷静そのものだった。
「ではここで滅びますか?主君の仇も討てずに滅ぶこそ
信長様への忠義に反する事でしょう」
秀吉は我に帰った。官兵衛の言うとおりだったからだ。
秀吉軍はその日の内に陣払いをする事にした。
しかし、陰で毛利の忍びに聞かれていた事には気付いていなかった。

その夜、秀吉が陣払いを始めようとしたその時だった。
「秀吉様、大変で御座ります」小姓が慌てて飛び込んできた。
「騒がしい。毛利方に気付かれたらどうするつもりじゃ」
秀吉が叱咤するが小姓は蒼ざめた表情で言った。
「た、高松の城が四つに増えております」
「そ、そんなはずは無かろう。よし、わしが見てこよう」
秀吉はそう言って高松城の方へ走った。しかし確かに城が四つになっていたのだ。
「た、確かに城が四つになっておる。何かカラクリがあるはずじゃ」
秀吉の予感は当たった。次の瞬間、三つの城が動き始めたのだ。
三つの城は輝元が隆景に極秘で作らせていた秘中の秘、木製安宅船だった。
織田水軍にこそ劣れど存在感は群を抜いていた。
無論、二日、三日の突貫工事で仕上げたもので浮く事すら危ぶまれた物だった。
指揮をとってるのは乃美宗勝であった。
「いかん!あの安宅船を迎えうて!」秀吉はそう命令した。
ここでやられては元も子もなかったからだ。
だが、輝元の策はこれだけではなかった。
秀吉本陣の真後ろにはすでに毛利陣を出て、
秀吉陣に迂回していた元春の姿があった。
「我が甥っ子ながらとてつもない事を考えよるわい。
秘中の秘であった安宅船すら囮に使うのだからな・・・」
元春は隣の元長に聞こえるように言った。そして、大音声で兵を叱咤激励した。
「今こそ、秀吉の本陣を襲え!奴ら、目の前の事で手ぇ一杯のはずじゃ」
そういうなり、自ら先頭に出て秀吉の陣に突っ込んだ。
「何、元春軍の奇襲じゃと?こうなっては軍を支えるのは不可能じゃ。
一刻も早く姫路に戻るぞ!」秀吉は近習衆に守られながら退却していった。
可哀想なのは秀吉に随行した宇喜多軍である。岡山城に逃げ込んだものの、
毛利の圧力に抗する事とが出来ず、
また、隆景の進言もあり、篭城僅か三日で開城した。

毛利輝元の更なる狙いは豊後の大友、土佐の長曾我部にも向けられようとしていた。



その日、輝元は改めて毛利に降った宇喜多家の居城、岡山城にいた。
今後の対策を練るためである。軍議は当然のごとく、元春派と隆景派に分かれた。
「このまま秀吉を追撃し、京にのぼった上で、天下に覇を唱えるべし!」と
強硬策を取るのは元春である。対して隆景は、
「大友や長宗我部に対する備えをするのが先決である」と説いた。
しばらくして、
「両叔父上の言い分最もである」輝元はそう言ったきり口を開かなかった。

(これからどうするか・・・)
輝元は悩んだ。秀吉を破った以上毛利としての態度を決めなければいけない。
だが、周りは大友、羽柴、長宗我部といった大名ばかりで敵ばかりであった。
そこが毛利としての最大の悩みであった。
(できる限り敵は増やしたくない。と言って、昨日まで敵だったものを
『はい、そうですか』と許す事はできない・・・)悩みに悩んだ末、
輝元は決断を下した。
「我等が天下を狙うに当たり、背後の敵は取り除かねばならん。
そこで、大友ならびに長宗我部とは手を結ぶ。幸い、叔父の秀包殿は
大友宗麟の娘を娶っておる故、使者としては申し分ない。
長宗我部への使者には隆景殿、あなたにお願いできますか?」場内が騒ぐ。
それもそのはず、両川の一人が敵である長宗我部の元を訪れるのだからだ。
「仰せの通りに・・・」隆景はあっさりと土佐行きを承諾した。

数日後、大友への使者になった小早川秀包は豊後は府内城に着いていた。
毛利からの使者ということで怪しまれたが、なんとか宗麟への目通りがかなった。
「宗麟様も御壮健にてなによりでございます」秀包が挨拶を述べると、
「そんな事より用件はなんだ」宗麟は早く本題に入るように促した。
「実は、輝元様は大友と更なる同盟を結びたいとの事です」
この発言には宗麟ならず、家臣団全員が驚いた。
「なるほど、お互い目の前のことで手一杯だから不可侵条約を結びたいのだな」
宗麟が核心を突く。
「はい、輝元様としては、九州に手を出す事はありません。望みとあれば、
竜造寺との同盟を白紙に戻しても良いとお考えにござります」
さらに家臣団が驚く。まさか、毛利からそんな事を申し入れてくるとは
思いもしなかったからだ。
「わかった。輝元殿の申し様、良く分かった。同盟の件、了承したと伝えてくれ」
「有難うございます。きっと輝元様もお喜びなると思います」秀包は
そう言って城を後にした。

一方その頃、土佐の岡豊城である。ここは土佐の出来人で知られる
長宗我部元親の居城であった。
「我々と同盟を結びたいと・・・」元親はそう話を切り出した。
「はい、その為ならどんな事でも協力すると輝元様は言っております」
使者である隆景が答える。
「ならば、河野への援助の停止と我等のこれから取る行動の黙認を条件としたい」
元親が言うなり隆景が書状を取り出した。中には元親が言った事全てを
認めると言う内容が書いてあった。
「ならば、同盟は成立だな。隆景殿もご苦労であったであろう。
今宵はゆるりと休まれるが良い」と元親が言うと、
「この事を早く伝えたいのでこれにて失礼つかまつります」と言って、退室した。
隆景が去った後、元親が呟いた。
「さすが中国の雄、元就殿の孫だけある。
わしでは相手にならんやもしれん・・・」

こうして背後の憂いを断った毛利家は領内全域に大動員令をかけた。
新たに兵が集まり、七万の軍勢となった毛利軍は播磨に出撃するのであった。





投稿本当にありがとうございました。

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