歴史小説17

藤原秀衡殿からの投稿

奥州の覇者

セミがうるさい程鳴く夏。三戸城内では家臣達が慌しく戦の準備をしていた。
事の次第は兵士の急報により始まった。城内で晴政が
いつもの様に朝食を取っていると、そこへぼろぼろになった兵士が
駆け込んできた。
「きゅ、急報です!」
「どうしたというのじゃ?」
「や、安信様の屋敷が浪岡家の者によって襲われ・・・、
そこに居たものは私以外全員殺されてしまいました。安信様も・・・」
安信というのは晴政の父である。また、浪岡家というのは
南部家の北に位置する大名である。
「な、何ィ!?ち、父が・・・。馬鹿な!」
周りの重臣達も驚きを隠せない様だ。
「本当でござります・・。この目でしかと・・・」
「そうか・・・ご苦労であった・・・。下がってよい・・・」
胸の内からこみあげてくる怒り、悲しみを押さえながら晴政は言った。
「家臣全員を呼べ 」
やがて家臣が集まってきた。皆、こんな時に何事だろうと不思議がっていた。
晴政は家臣達に事の次第を伝え、驚いている家臣達に向かって大声で言った。
「これから亡き父の仇を討つ為、浪岡家に出兵致す!
皆は三日以内に兵・武器を集めよ!城を守るのは石川高信、お前に任せる!
おのおのがた準備を怠るで無いぞ!」
しかしここで石川高信が立ち上がり、晴政に言った。
「は、晴政殿、ちょっと待ってくれい!わしも亡き殿の仇を報いたいのだが!」
晴政は少し考え言った。 
「高信、この城は大事な拠点だ・・・。
ここを取られてはどうしようも出来ぬ・・・。分かってくれ。」
高信もこれ以上言っても無駄と悟り大人しくしたがった。
しかし、ある家臣が前に進んで晴政に言った。
「お待ち下さい!そんな早急に出陣されましては策も立てておられませんし。
三日で兵を全員集めるのも難しいかと。戦は万全の体制で行なうべきです。
もう一度ご再考を!」
普段の晴政ならこの的確な意見を受け入れ出兵を止めていただろう。
しかし今の晴政は違っていた。今までかつてないほど怒っていた。
いや、狂っていたと言ってもいいだろう。
普段なら出すはずの無い声を出しながら言った。
「やかましい!仇討ちは早いほうが良いのだ!いちいち待ってられるか!
出兵じゃ!浪岡め!許さん!」
そう言いながら晴政は奥へと大股に歩いていった。
家臣達は主君の変貌ぶりにただただ驚くばかりであった。
しかしそんな晴政にも悩みがあった。自分が攻めていけば
その隙をついて大崎や最上が攻撃してくるだろう・・・。
いや、それは高信が守ってくれるはず・・。
しかし必ず守りきるという保証は無い・・・。
晴政は考えた末に伊達
と一時的な同盟を結ぶ事にした。これなら最上は攻めようとすると
背後から伊達が襲ってくる。というわけだ。大崎家のみなら充分守り通せる。
そう判断した。早速伊達と交渉する事にした。しかし伊達が頷くか・・。
それが問題であった。そんな時晴政の頭に浮かんだのは
最近めざましい働きをしている大浦守信であった。
守信なら伊達を頷かせる事も出来るだろう。そう思い、早速守信を呼び、
伊達の元に向かわせた。思ったとおり巧みな弁舌で
見事に伊達と同盟を結んで帰ってきた。晴政はとても喜び、
浪岡家攻略が成功した暁には褒美を与える事を約束した。
これで準備万端。そして約束の三日目。家臣達はありったけの兵を集めて来た。
その数3000。石川高信も2000の兵で城を守らせた。攻撃だ。
ここで晴政は兵達の士気を上げる為、こう言った。
「行けえぃ!父の仇を討つのじゃあ!老若男女構わん!皆殺しだ!
褒美はいつもの二倍与えるぞ!」これにより、兵士の士気は上がり、
負ける事など考えられない程の勢いだった。
しかしここで晴政にこう進言した者が居た。
「殿!御待ち下さい!民を皆殺しにしてしまっては殿の名声は地に落ち、
それに乗じて敵が攻めてくるやも知れません。もう一度御考え直しを!」
こう進言した者の名は石亀信房。この戦で功を立て、
後に南部家の重臣になる者である。三日経って少しは冷静になったのか。
晴政はこの意見を善しとした。そして浪岡家に向かって怒涛の進撃を続けた。
南部の軍隊は騎馬が中心だった。その為機動力も高く、
東北では随一の強い兵を持っているのが南部家である。
そしてそろそろ浪岡家の領地にさしかかろうとした時に、
そこの豪族であろう軍勢1000が数里先に陣を張り、
迎え撃つ準備をしていたのである。浪岡家は豪族との繋がりが
深いことで知られている。しかし不運な事にも南部家の軍勢は
戦を今か今かと待っていた。そこに軍勢が来たのだからまたとないチャンスだ。
晴政は全軍に攻撃命令を出した。晴政自身
も出撃し、陣の中心辺りで指示を出した。その勢いはものすごく、
まるで巨大な津波か何かのようだった。その一つの固まりが敵を飲み込んだ。
波が敵をもみくちゃにし、波が収まる頃には敵の姿は無かった。
たった半時(三十分)程のものだった。晴政自身もまさか
ここまですごいとは思わなかった。兵力で勝っているとはいえ、
死者がわずか13名という大勝利であった。
ひとまず陣を張って兵達をねぎらう事にした。
陣の中では兵士たちが敵から奪い取った旗や兜なを互いに見せ合い
自慢などをしていた。そしてふと辺りを見渡すとひときわ目を引いたのは
身長180はあろう髭づらの男であった。鎧は返り血で真っ赤になり、
ただ一人精神を統一させている様に座っていた。
晴政は自らその男に歩み寄り、名を聞いた。
「お主、名は何と申す?」
男は別段驚いた様子も無く、それが当然の事であるかのように答えた。
「某は大浦守信が息子、大浦為信と申す」
晴政は為信の堂々とした態度が気に入り、いつでも自分の近くに置いた。
後に自分の大きな敵になるとも知らずに・・・・・・・・。
さてこちらは大崎家である。南部家出兵と聞き、
今が好機と思い立ち最上家と連絡しあい、軍備を整えていた。
当主は大崎義直。南部家とこの大崎家は長年の仇敵である。
「ふふふ・・憎き晴政め!今度こそ一泡ふかせてやるわ!」
しかし不運にも晴政が手を打ってあり、伊達と同盟していた。
その為最上は動く事が出来ない。その為己のみで攻めなければならない。
「ええい、ここまで来て引き下がれるか。出陣だ」
さあこの後どうなることやら続きを御楽しみに。





投稿本当にありがとうございました。

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